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イエローゾーン1,000m拡大で、永田町は"実質、敷地外飛行不可"になった
例外規定は、ある。だが31枚の円が重なった永田町では、その例外が「自分の土地の真上」でしか機能しない。実測データと条文で、その構造を解きほぐす。
1何が変わったのか——300m→1,000m、そして直罰化
2026年7月14日、改正小型無人機等飛行禁止法(令和8年法律第47号。6月17日成立、6月24日公布)が施行された。ポイントは2つある。
範囲の拡大。飛行が原則禁止される「対象施設周辺地域」が、施設の敷地・区域+周囲おおむね300mから、敷地・区域+周囲おおむね1,000mへ広がった。警察庁の資料では、敷地・区域の上空をレッドゾーン、その外側おおむね1,000mまでをイエローゾーンと呼ぶ。
罰則の創設。改正前のイエローゾーンには、飛行そのものへの罰則がなかった。警察官の退去命令に違反して初めて罰則がかかる「命令前置」だった。改正で第14条が新設され、イエローゾーン上空の飛行そのものに直罰(6月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金)がかかる。レッドゾーンは従来どおり第13条で1年以下・50万円以下だ。
しかも、既存485施設の指定告示が公布されたのは7月3日。施行まで周知期間は11日間しかなかった。
なお、この法律は航空法と違って機体の重量を問わない。100g未満のトイドローンも対象になる(神奈川県警も「本法では重量の制限はありません」と明記している)。
2永田町の実測——1つの地点に、31枚の円
「おおむね1,000m」の円は、1枚なら大したことがないように見える。問題は枚数だ。国会議事堂、首相官邸、衆参の議員会館、最高裁、皇居、赤坂御用地、各国大使館、中央省庁——それぞれが独立した「対象施設」としてゾーンを持ち、永田町ではそれが全部重なる。
ドロマップに収録している公示データで実測すると:
この図で見てほしいのは2つ。中心の濃さと、裾野の広さだ。永田町・霞が関・赤坂・虎ノ門は10枚以上の重なりが面で連続する。そして皇居と赤坂御用地という広大な敷地からそれぞれ1,000mが取られるため、東京駅丸の内口ですら皇居の1枚に入る。図の範囲(約30km²)のうち、実に75%が「最低1枚はイエローゾーン」だ。ちなみに渋谷駅は0枚——対象施設は思うより偏在している。
3例外は3つある。ただし「効き方」がまったく違う
飛行禁止には例外がある。業界人の「例外があるから何とかなるのでは?」の出どころだ。法第10条2項は3つを並べる。
二 土地の所有者若しくは占有者(正当な権原を有する者に限る。)又はその同意を得た者が当該土地の上空において行う小型無人機等の飛行
三 国又は地方公共団体の業務を実施するために行う小型無人機等の飛行
読み飛ばしそうな箇所に、この記事の核心がある。一号には「当該対象施設に係る」と書いてあり、二号には施設を特定する語がない。
つまり——
- 一号(施設管理者ルート)は「円ごと」に効く。ある施設の同意は、その施設の円だけを解除する。31枚重なった空を一号で飛ぶなら、31施設の同意が要る。
- 二号(土地所有者ルート)は「土地ごと」に効く。権原のある土地の真上なら、上に何枚の円が重なっていようと、施設の同意は一件も要らない。必要なのは48時間前までの通報だけだ。
裏付けは施行規則第3条にある。規則は「対象施設の管理者又は土地の所有者若しくは占有者」を一括して「施設管理者等」と定義し、本人が通報する場合の添付書類に同意書面を一切求めていない。同意証明書面の写しが要るのは「施設管理者等以外の者」(=同意を得て飛ばす受託者など)だけだ(規則第3条2項)。なお公的資料の中には、農薬散布の文脈で土地所有者ルートに触れず「管理者の同意を得て通報」とだけ書いたものもあるが(有識者検討会報告書)、条文と規則の構造は上記のとおりである。
4核心:同意0件と31件のあいだに、境界線が1本あるだけ
ここまでを永田町に当てはめると、奇妙な断層が現れる。
ビルの屋上点検を考える。ビルの所有者から依頼を受け、敷地の真上だけで飛行が完結するなら——上空に31枚のイエローゾーンが重なっていても——施設の同意は0件。48時間前までに所轄署経由で通報書を1通出せば、適法に飛べる。
だが、機体が敷地の境界を越えた瞬間、二号の根拠は消える。たとえ3mでもだ。その先の空を適法にする道は、あとで見るように理屈上は複数あるが、施設の同意(一号)で埋めようとすれば、必要な同意はその地点を覆っている円の数だけ発生する。永田町駅前の路上なら31件。しかも経路が伸びれば、通過する空を覆う施設の「和集合」でさらに増える。
これが「実質、敷地外飛行不可」の正体だ。禁止規定が強いからではない。例外の成立条件が、重畳密集地では現実に満たせないからだ。条文上は例外が存在するのに、31枚の円が重なった瞬間、例外は「自分の土地の真上」という細い柱の中でしか機能しなくなる。移動を伴う通常の飛行経路——空撮も、測量も、配送も——が組めない。
正確を期すと、「重なった全施設の同意が必要」と明言した公的資料は現時点で見当たらない。ただし逆の読み方(どこか1施設の同意で重なり全体が解除される)を採ると、900m離れた政党事務所1件の同意で国会議事堂の真上を飛べることになり、法の趣旨からあり得ない。一号が「当該対象施設に係る」周辺地域単位で例外を作る以上、重なりの数だけ同意が要るというのが条文構造からの帰結だ。
5はみ出した先の空を、誰が救えるか
では、境界の外の空は本当に詰みなのか。条文に戻ると、理屈上の選択肢は3つある。
出た先の土地の権原者の同意を取る
公道も誰かの土地だ。国道なら国、都道なら都、区道なら区が管理する。条文の建て付けだけを見れば、施設31件を回るより、道路管理者に当たるほうが筋は通る。ただし——道路管理者の同意で二号を使った公表運用例は、警察庁・都道府県警の資料にも国会答弁にも見当たらない。ドローンの上空通過に同意を出す制度も様式も現状なく、経路が国道・都道・区道をまたげば相手は1件では済まない。実際に組むなら、所轄署への事前相談が前提になる。
経路を覆う対象施設すべての同意を取る
永田町駅前の1点で31件。経路が伸びれば和集合でさらに増える。衆議院・参議院・内閣官房・最高裁・宮内庁・外国公館……を横断して同意を揃えるのは、現実的に不可能だ。なお、はみ出す地点が数枚の円にしか入らない立地なら、必要な同意はその数施設分で済む。どちらになるかは座標と円の配置次第——だからこそ、飛行前の地図判定が実務の生命線になる。
国・地方公共団体の業務として飛ぶ
災害対応やインフラ点検の受託など、公務ルート。該当する案件は限られるが、該当すれば施設同意は不要になる(通報は必要)。
6手続きの誤解:通報は31通ではなく、1通
「31施設」と聞くと通報も31通に思えるが、違う。通報先は「当該対象施設周辺地域を管轄する都道府県公安委員会」で、永田町なら東京都公安委員会に所轄署経由で1通。複数の警察署の管轄にまたがる場合も「いずれかの警察署」でよい(施行規則第3条1項)。e-Gov電子申請なら24時間出せる。
- 48時間前までに、別記様式第1号の通報書+飛行区域の地図+機体の写真(登録記号表示があれば写真不要)
- 本人(土地の権原者)が飛ばすなら同意書面は不要。受託者が飛ばすなら権原者の同意を証明する書面の写しが必要——口頭の業務委託では足りない
- 皇居・赤坂御用地が絡めば皇宮警察本部長にも、海域を含めば管区海上保安本部長にも、自衛隊施設・対象空港の周辺ではその施設管理者にも通報が加わる(法第10条3項)
- 都道府県をまたぐ経路はすべての公安委員会に通報
- 災害その他緊急やむを得ない場合に限り、飛行直前までの口頭通報も可(規則第6条)
7よくある誤解を、答弁と条文で潰しておく
| よくある理解 | 実際 |
|---|---|
| 100g未満のトイドローンなら対象外 | 本法に重量要件はない。100g未満も対象(航空法の「無人航空機」とは定義が別)。 |
| 航空法の許可・承認を取ってあるから大丈夫 | 別の法律が重畳的にかかる。DID・150m・目視外の許可は本法の適法性を1mmも担保しない。 |
| 高く飛べば「上空」から外れる | 政府答弁で否定済み。「その高度にかかわらず…上空の範囲について特段の定めが設けられていない。領空ではない宇宙空間は含まれない」(令和8年6月16日 参院内閣委・警察庁警備運用部長)。 |
| 屋内なら対象外 | 本法に明文の除外規定はなく、警察庁・県警の公表資料にも明言が見当たらない。航空法の理屈をそのまま持ち込まず、ゾーン内の屋内飛行は所轄署に確認を。 |
| 300m時代の地図で判断できる | 公示図面は施行2日後の7月16日に更新され、訂正表も出ている。古い図面は捨てて最新公示で。 |
8「動く規制円」は、もう動いている
今回の改正はもう1つ、時限装置を積んだ。新設の第3条の2により、警察庁長官は天皇・内閣総理大臣の所在する施設を「期間を定めて」対象特別要人所在施設に指定でき、その周囲おおむね1,000mが期間限定のイエローゾーンになる。
そして施行からわずか3週間で実運用が始まった。8月6日の広島平和記念式典が全国初適用、続いて長崎の平和公園が8月8日〜9日の2日間限定で指定された(令和8年7月28日付・警察庁広報資料)。恒常指定の一覧を確認するだけでは足りない。式典や要人動静に連動して、数日単位で新しい円が出現しては消える。飛行直前の官報・警察庁新着情報の確認が、運用に組み込むべき新しい工程になった。
9それでも残されている道
国会も、この規制の重さを認識していないわけではない。参議院内閣委員会の附帯決議(令和8年6月16日)は、農薬散布のように一定期間反復継続する飛行への「包括的な同意」を認める弾力運用を政府に求め、規制が「国民の権利及び自由に対する過度な制約」とならないよう継続的な見直しも明記した。定常業務でゾーン内を飛ぶ事業者にとっては、毎回の同意取得が包括同意に置き換わる可能性がある——運用の具体化はこれからだが、ウォッチする価値のある動きだ。
なお影響は永田町だけの話ではない。衆議院内閣委員会の審議では、対象になり得る自衛隊施設は約2,400か所・在日米軍施設131か所にのぼり、沖縄では伊江島のほぼ全域が対象施設周辺地域に含まれるとの試算も示された。永田町は「重なりの深さ」の象徴だが、基地が集中する地域では「面の広さ」が問題になる。
10飛ぶ前の判定フロー——結局、何を確認すればいいか
施設同意は0件。48時間前までに通報書+地図+機体写真。受託なら権原者の同意書面の写しを添付。皇居等・自衛隊施設・空港が絡めば通報先が追加。
その地点を覆う円が数枚なら、その施設分の同意(一号)または越えた先の土地の権原者の同意(二号継続・要所轄署相談)で組める余地がある。
重なりが何枚か、どの施設の円か——これは目視では判定できない。ドロマップでは住所検索で該当施設名まで一覧確認できる。都心の案件は、見積もりの前に「何枚重なっているか」を見るところから始めてほしい。
数値と資料についての注記
・本文の重なり数は、警察庁・各省の公示に基づくドロマップ収録ポリゴン(2026-08-19取得)への点内包判定による実測値。永田町駅は駅中心(139.740556, 35.678611)で31。採用座標により±数枚変動する(例:霞ケ関駅は25〜29)。
・「おおむね1,000m」は法文の表現をそのまま用いた。告示される対象施設周辺地域の実際の境界は、厳密な半径1,000mの円ではなく、町丁目・番地等の行政区画に基づく多角形である。
・改正前の「9施設」は、公示の敷地・区域ポリゴンから300m以内という条件での再現値。
・告示上の対象施設は485(令和8年7月3日告示・7月14日施行時点)。収録ポリゴン524件との差は、1施設の告示区域が地理的に分割されているケースや、告示後の追加・期間限定指定を含むためと考えられる。
・個別の飛行可否は、必ず最新の公示と所轄警察署への確認によること。